本号では、不動産信託の通常の登記申請について解説していきます。なお、現時点においては、改正不動産登記規則や改正不動産登記令が未確定ですので、本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解でありますことを、あらかじめお断りしておきます。
1.同時申請
(1)意義
信託登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転または変更の登記の申請と同時にしなければなりません。
不動産信託は、不動産の所有権その他の権利を他人に帰属させ、一定の目的に従って管理させることを目的としますので、不動産が受託者名義に移転したとする登記のみでは公示が不十分です。受託者名義の不動産が受託者の固有財産なのか、それとも信託財産なのかを明確にする必要があります。そこで、信託に係る権利の保存、設定、移転または変更の登記を申請する際には、同時に信託の登記を申請して、信託財産である旨を明確にしなければならないと規定されています。
ここでいう「同時に」とは、具体的には、同一の申請書でという意味であり、このような申請方法は不動産登記において信託登記以外にはなく、特殊な申請方式です。
(2)改正点
改正前の不動産登記法においても、信託登記については、同時申請が求められていましたので、この点については改正後も異なるところはありません。
ただし、条文上は、権利の移転、設定、保存のほかに変更が加えられました。これは、自己の有する財産について信託宣言により信託を行う方法(自己信託)が新たに認められたため、権利の変動をともなわない信託登記が必要となることから、変更登記の一種として追加されたものです。
2.単独申請
(1)意義
信託登記は、受託者が単独で申請することになります。
上で説明しましたとおり、信託に係る権利の保存、設定、移転または変更の登記の申請と信託登記の申請は同時に同一の申請書をもってなされなければなりません。そのため、例えば、信託に係る所有権の移転登記については、所有権の移転を受ける受託者を登記権利者、所有権の登記名義を失う委託者を登記義務者として共同で申請することになりますが、信託登記としては、受託者が単独で申請するという特殊な申請方式となります。
(2)改正点
改正前の不動産登記法においては、信託に係る所有権の移転登記を申請する場合、所有権移転登記と信託登記は、いずれも受託者を権利者、委託者を義務者として共同で申請します。しかし、信託はその目的に従って不動産を管理する義務を負いますので、信託登記としては、委託者が権利者であり、受託者が義務者であるともいえ、このような申請方式は合理的ではありません。また、委託者の権利保護の観点からは、所有権移転登記について共同申請の方法をとっていれば十分であり、信託登記についても共同申請にしなければならない理由はありません。さらに、信託財産の処分による信託の登記の場合は、従来も所有権移転登記については共同で申請しながらも、信託登記については同時に単独で申請する方式をとっていました。
そこで、改正後の不動産登記法ではこれらの点を踏まえ、信託登記の申請方式については、一律単独で申請することとなりました。
3.登記申請書の記載例
上記を前提に検討しますと、改正後の不動産登記法における所有権の移転と信託登記を申請する場合の申請書の書式は、次のようになるものと考えられます。改正前の不動産登記法における信託財産の処分による信託の登記と類似した形式であるといえます。
| 登記の目的 |
所有権移転 |
|
信託 |
| 原因 |
平成○年○月○日信託 |
| 権利者(信託登記申請人) 甲 |
| 義務者 |
乙 |
4.関連条文
(1)信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
71条(不動産登記法の一部改正)
(2)不動産登記法
98条1項・2項(信託の登記の申請方法等)
(3)不動産登記令
5条
(4)改正信託法
2条1項
3条