本号では、「不動産信託の登記事項」について解説していきます。
1.意義
ある不動産を購入しようとするときは、当該不動産にどのような権利が付着しているか、たとえば、所有者は誰か、担保に入っているか等を調査しなければなりません。しかし、権利は観念上の存在ですから目に見えません。そこで、この権利を外部から容易に確認できるようにしたのが登記制度です。
登記により公示される事項を登記事項といいます。具体的に何を登記事項とするかは、不動産登記法をはじめとした法令により規定されており、規定されていない事項は登記することができません。規定されていない事項が誤って登記されたとしても、当該事項には登記としての効力はなく、登記官は職権により当該登記を抹消できる場合があります。
2.登記事項
信託登記における登記事項は、以下のとおりです。
(1)「委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所」
(2)「受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め」
信託行為において、特定の受益者を定める代わりに、受益者として指定されるべき者の条件又は指定する方法を定めた場合は、その定めが登記事項となります。受益権の債権譲渡により受益者が変更する可能性がある信託に活用できます。
(3)「信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所」
改正信託法における信託管理人とは、受益者が現に存在しない場合において、受益者のために、受益者の一切の権利を行使する者のことをいいます。信託管理人は必置機関ではありませんので、受益者が現に存在しない場合でかつ信託管理人が指定されたときは、信託管理人の氏名等を登記することとなります。
(4)「受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所」
受益者代理人とは、受益者が現に存在する場合において、受益者のために、受益者の全部または一部の権利を行使する者のことをいいます。受益者が現に存在する場合に選任される点で、信託管理人と異なります。受益者が存在するが不特定の場合は、信託管理人ではなく受益者代理人を選任します。ある特定の時点をみれば、受益者は特定しているからです。受益者代理人は必置機関ではありませんので、受益者が現に存在する場合でかつ受益者代理人が指定されたときは、受益者代理人の氏名等を登記することとなります。
(5)「受益証券発行信託であるときは、その旨」
受益証券発行信託とは、信託行為において、1つまたは2つ以上の受益権を表示する受益証券(有価証券)を発行する旨を定めた信託のことをいいます。受益証券発行信託であるときは、その旨が登記事項となります。
受益証券が発行される信託には投資信託や貸付信託もありますが、受益証券発行信託である旨を登記する信託は、改正信託法第185条第3項に規定する信託に限られます。
(6)「受益者の定めのない信託であるときは、その旨」
受益者の定めのない信託とは、いわゆる目的信託といわれるもので、信託の終了に至るまで受益者が観念されないものをいいます。受益者の定めのない信託であるときは、その旨が登記事項となります。
(7)「公益信託であるときは、その旨」
公益信託とは、前記(6)の受益者の定めのない信託の一種ですが、公益信託を設定するためには監督官庁の厳格な許可を要する等、特別な手続が必要であることから、前記(6)の受益者の定めのない信託である旨のほかに、公益信託である旨も登記事項とされています。
(8)「信託の目的」
信託の目的とは、信託行為において、受託者が一定の目的に従い財産の管理または処分等、当該信託の目的達成のためにすべきものとして定められた事項のことをいいます。そしてこの信託の目的は、登記事項となります。
(9)「信託財産の管理方法」
信託財産の管理方法とは、信託行為において定められた信託財産の管理や処分方法のことです。そしてこの信託財産の管理方法は、登記事項となります。たとえば、特定の信託財産に属する財産の処分を禁止することは、信託財産の処分方法として登記事項となります。
(10)「信託の終了の事由」
信託の終了事由は、法令により規定されていますが、法定終了事由以外にも、信託行為をもって終了事由を定めることができます。委託者や受託者の意思を尊重するためです。たとえば、信託設定から30年を経過した時に信託は終了する、というような定めを設けることが可能です。そして、信託行為において定められた信託の終了事由は登記事項となります。
(11)「その他」
前記(1)から(10)の登記事項以外で、信託行為において定めたものが登記事項となります。たとえば、信託終了時における財産の帰属に関する事項等です。
3.受益者登記の簡略化
前記(2)、(4)、(5)に掲げる事項のいずれかを登記した場合、登記事項である受益者の氏名または名称および住所については、登記しなくてもかまいません。これらは、はじめから受益者の存在が多数になることや受益者の変更が頻繁にあることが予定されている信託だからです。つまり、これらの信託において、受益者に変更があるたびごとに、受益者変更登記を申請しなければならないとすると、あまりにも負担が大きいとして実務界から負担軽減が求められていたため、簡略化が認められました。
なお、前記(4)にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限り登記の簡略化が認められますので、当該受益者代理人によって代理されない受益者については、登記の簡略化が認められませんから、当該受益者の氏名等を登記しなければなりません。
4.関連条文
(1)信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第109号)
71条
(2)不動産登記法
25条(申請の却下)
71条(職権による登記の抹消)
97条1項1号〜11号
(3)改正信託法
123条1項(信託管理人)
138条1項(受益者代理人)
185条3項(受益証券発行信託)
258条1項(受益者の定めのない信託)
2条1項及び3条(信託の目的)
163条1号〜9号及び164条1項(信託の終了事由)