本号では、「事業信託」と「信託管理人等」について解説していきま
す。
[事業信託]
1.意義
[事業信託]とは、不動産などの積極財産と負債などの消極財産も含めた総体としての特定の事業を対象とする信託をいいます。
改正信託法では、事業信託について直接規定した条文はありません。現信託法では、信託の対象となる財産を積極財産に限定し、消極財産を認めていなかったところ、改正信託法では、信託の設定前に委託者が負担していた債務を信託行為によって信託財産責任負担債務とすることが認められたことから、積極財産と消極財産を一体として信託を設定することが可能となります。その結果として積極財産と消極財産の総体である事業について信託の設定ができるようになり、事業信託が可能であるという解釈になるわけです。
また、受託者は、信託財産に属する財産の管理または処分およびその他の信託の目的の達成のために必要な権限を有するという規定が設けられたことによって、受託者が、事業を行う上で必要となるさまざまな行為ができるようになります。
2.活用場面
[事業信託]には、事業のリスクを財務的に切り離すことができるというメリットがありますが、以下のように他の信託制度と組み合わせることにより、さらに有効に活用できるものと考えます。
(1)自己信託
[事業信託]と信託宣言により自らを受託者とする、いわゆる自己信託を組み合わせることによって、営業上の許認可の承継、受託者の信託業の登録の要否、営業の秘密・ノウハウの流出、といった問題を防ぐことができます。
(2)受益証券発行信託
[事業信託]と受益証券発行信託を組み合わせることによって、事業を証券化して当該証券を売却することにより、企業の資金調達の手法の1つとして利用することができます。
(3)限定責任信託
[事業信託]と限定責任信託を組み合わせることによって、当該事業をあたかも独立した法人と同様の存在にすることが可能となり、新規に展開する事業のリスクが他の事業に及ぶことを回避することができます。
3.活用における留意点
株式会社を委託者とする事業信託によって事業の全部または一部を受託者に移転する場合、会社法上の事業譲渡の方法によるものとされ、その効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議による承認が必要とされています。また、事業信託にともなう個々の財産の移転については個別に移転手続をとる必要があり、個々の債務の移転についても個別に債権者の承諾が必要である点も、通常の事業譲渡と変わりありません。
もっとも、事業信託を自己信託の方法で行えば、事業の主体に変更はありませんから、個別の移転手続等の煩雑な手続は不要となりますが、株主総会の特別決議による承認を要するとする会社法上の規定は、自己信託の場合にも適用されます。
4.関連条文
(1)改正信託法
2条3号(定義=信託財産)・9号(定義=信託財産責任負担債務)、21条1項3号(信託財産責任負担債務の範囲)、26条本文(受託者の権限の範囲)、185条(受益証券の発行に関する信託行為の定め)、216条(限定責任信託の要件)、266条2項(法人の事業の譲渡に関する規定の適用)
(2)会社法
467条〜(事業の譲渡等)
[信託管理人等]
1.意義
(1)[信託管理人]とは、受益者が現に存在しない場合に、受益者のために自己の名をもって、権限を行使する者をいいます。信託行為において指定することもできますが、指定がないときや、指定された者が就任しないときには、裁判所は利害関係人の申立てにより、選任することができます。現信託法では、信託管理人は受益者が不特定または未存在の場合に選任することができるとされていましたが、改正信託法では、受益者が現に存在しない場合に限り指定することができるとされました。したがって、信託管理人が指定されたときに限り、信託管理人の氏名または名称および住所が登記事項となります。
(2)[信託監督人]とは、受益者が現に存在する場合に、受益者のために自己の名をもって、受益者に認められた受託者の監視、監督のための権限を有する者をいいます。これは、改正信託法によって創設された規定で、信託行為の定めまたは裁判所の決定により、信託監督人を選任することを認めて、受益者の保護を図っています。なお、信託監督人が選任されていても、信託監督人は受益者を補完する者ですから、受益者自身が権利を行使することもできます。
(3)[受益者代理人]とは、受益者が現に存在する場合に、信託行為の定めによって、その代理する全部または一部の受益者のために権利に関する行為をする権限を有する者をいいます。現信託法では、不特定の受益者がある場合に信託行為により信託管理人を指定するか、指定されていない場合には、利害関係人の裁判所に対する請求または職権で裁判所が選任することとされていましたが、改正信託法では、受益者が現に存在するが、不特定の場合や多数の場合などに、信託行為の定めにより受益者代理人を選任することができるとされました。したがって、受益者代理人があるときは、受益者代理人の氏名または名称および住所が登記事項となります。また、登記の申請に関する権限も、受益者代理人がその代理する受益者に代わって行使することになります。
2.活用場面
(1)信託管理人の場合
これから生まれてくる子供を受益者に指定した場合や、受益者が後になって指定されることになっている場合など受益者となる者の利益保護のため利用が増すものといえます。
(2)信託監督人の場合
特定の受益者が未成年者や高齢者である場合には、受託者を十分に監視・監督するのは難しいことから、受益者に代わって受託者を監視・監督する者を選任するニーズがあります。
(3)受益者代理人の場合
多数の受益者が存在するファンドや資産流動化のための信託などにおいて、受益者の利益保護や信託事務の円滑な処理の観点から、広く利用が増すものといえます。
3.活用における留意点
(1)改正信託法では、受益者が未存在の場合には信託管理人を、受益者が存在するが不特定の場合には、信託監督人または受益者代理人を置くことになります。したがって、これらの違いに応じて信託管理人と信託監督人または受益者代理人の区別が必要となります。
(2)信託監督人についても、受益者の一部が高齢者等である場合には、裁判所が信託監督人を選任できないとされています。これは、裁判所による選任の要件である「受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別な事情がある場合」に該当しないと考えられるからです。
(3)受益者代理人は、信託管理人や信託監督人とは異なり、裁判所が選任することはできません。
4.関連条文
(1)改正信託法
123条(信託管理人の選任)、125条(信託管理人の権限)
131条(信託監督人の選任)、132条(信託監督人の権限)
138条(受益者代理人の選任)、139条(受益者代理人の権限)
(2)不動産登記法
97条1項3号(信託管理人の登記事項)
97条1項4号(受益者代理人の登記事項)