本号では、「受益証券発行信託」と「限定責任信託」について解説していきま
す。
[受益証券発行信託]
1.意義
「受益証券発行信託」とは、信託行為において1つまたは2つ以上の受益権を表示する受益証券(有価証券)を発行する旨を定めた信託のことを指します。
1つの信託の中で受益証券を発行する受益権と発行しない受益権が混在するものも認められています。
2.背景
現信託法においては、投資信託や貸付信託等一定の例外を除いて、受益権に関して有価証券を発行することができるとの明文の規定がなかったため、有価証券の発行は行われていませんでした。しかしこれら以外でも、受益権を有価証券化するニーズがあり、改正信託法において信託一般に認められることとなりました。
3.改正の要点
(1)受益証券
受益証券は、記名式・無記名式いずれの形式も認められます。1つの信託の中で、受益証券を発行する受益権と発行しない受益権が混在することは差し支えありませんが、一旦、受益証券を発行しないものと定めた後に発行するよう変更することはできません。その他、受益証券占有者の適法推定や受益証券不所持申出制度等が規定されています。
(2)受益権の譲渡方法
受益証券が発行されている受益権については、記名式・無記名式を問わず、受益証券の交付により受益権譲渡の効力が生じます。記名式受益証券における受益権の譲渡については、受託者との関係では受益権原簿の記載が、受託者以外の第三者との関係では受益証券の占有がそれぞれ対抗要件となります。
つまり株式と同様です。なお、無記名式受益証券における受益権の譲渡については、受託者および受託者以外の第三者いずれとの関係においても受益証券の占有が対抗要件となります。
(3)関係当事者間の権利義務
受益証券発行信託は、受益権が市場に転々流通し、不特定多数の者が受益者となることが想定されますので、受託者の注意義務の軽減禁止や信託事務の処理を委託した場合の義務の軽減禁止等、関係当事者間の権利義務に関する規定が整備されています。
4.活用場面
信託受益権の有価証券化が可能となることにより、受益権の流通性が高まり、不動産の証券化等資産流動化の促進や、信託を使った金融商品の柔軟性・利便性が高まり、信託の利用が増加するものと考えられます。
5.関連条文
改正信託法185〜215条、248、270条
[限定責任信託]
1.意義
「限定責任信託」とは、受託者が、当該信託のすべての信託財産責任負担債務について、信託財産に属する財産のみをもって、その履行の責任を負う信託のことを指します。信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務のことを指します。
2.背景
現信託法では、信託事務から生じた債務は、原則として信託財産のみならず受託者の固有財産をもって弁済しなければなりませんでした。たとえば、スワップ取引やオプション取引等デリバティブ商品への投資を行う信託においては、信託財産責任負担債務が信託資産価額を超過することがあり、この場合、受託者が固有財産をもって弁済することとなってしまいます。そこで、信託財産が第三者に対して負担する債務について、取引の相手方である第三者との間で、責任財産を信託財産に限定する特約を個別に結ぶことで対応していました。しかし、新たな市場に対する機動的・積極的な投資活動を行うためには、いちいち相手方である第三者と交渉し特約を結ぶことは迂遠であるため、特約を結ぶまでもなく、信託財産だけが責任財産となる限定責任信託が制度化されました。
3.改正の要点
限定責任信託は会社に類似しています。すなわち、信託行為においてそのすべての信託財産責任負担債務について、受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の定めをしますが、会社設立時の定款の定めと類似します。また、限定責任信託も会社も、登記をすることによって効力が生じます。受託者が限定責任信託の受託者として取引する場合、その旨を相手方に示さなればなりませんが、会社の取締役として行為する場合も、取締役であることを相手方に示さなければならないことと類似します。
4.活用場面
限定責任信託は、会社設立と類似の効果が得られるため、子会社設立の代替手段としての利用が可能です。また、市場や技術動向の変化が激しいプロジェクト事業等ハイリスク・ハイリターン事業に利用することが期待されます。
5.関連条文
改正信託法216〜247条