本号では、「セキュリティトラスト」と「後継ぎ遺贈型連続受益者信託」について解説していきます。
[セキュリティトラスト]
1.意義
(1)定義
債務者が委託者として、自己の財産について、担保権者たる受託者に対して信託行為により担保権を設定し、受託者は債権者を受益者として、担保権を保有・管理する制度をセキュリティトラストといいます。
(2)現信託法の問題点
現信託法では、信託財産の処分方法に担保権設定が含まれるかについて明確な規定はなく、担保附社債信託法のような特別法をのぞき、多数の債権者のために、担保物を受託者に信託し、管理させる制度がありませんでした。
そのため、シンジケート・ローンの様に多数の債権者がいる場合、債権譲渡に伴う登記等の手続に煩雑な事務処理を強いられました。
(3)改正の要点
改正信託法では、信託行為により担保権を設定できる旨が明記されました。
2.活用場面
(1)シンジケートローン
多数の金融機関(債権者)がシンジケートを組んで融資を行う場合、従来は、各金融機関が自ら担保権者として設定・管理をする必要があり、登記をはじめとする担保権に関する手続等が非常に煩雑でした。今後は、セキュリティトラストを利用すれば、債権者とは異なる者を受託者として担保権の設定・管理をすることが可能となるため、事務処理を軽減することができ、管理コストの削減効果が期待できます。
(2)受益者変更手続きの簡略化
現行の不動産登記法では、信託登記における受益者の氏名・住所が登記事項とされるため、受益者たる債権者が交代するたびごとに、その受益者の変更登記をしなければなりませんでした。改正不動産登記法では、「受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定め」を登記することで足りるため、個別の受益者の氏名・住所の記載は要しなくなりました。この結果、受益者たる債権者が交代しても、受益者の変更登記は不要となります。
3.関連条文
改正信託法3条1号・2号
改正不動産登記法97条1項2号
[後継ぎ遺贈型連続受益者信託]
1.意義
(1)後継ぎ遺贈
後継ぎ遺贈とは、Xが遺贈によりYに財産を承継させるとき、「Yが死亡したときは、その財産はZに帰属する」というような、遺贈者Xが受贈者Yの死亡後の財産帰属先まで、あらかじめ定める内容の遺贈のことをいいます。
(2)現行法の問題点
後継ぎ遺贈については、民法上は認められないとされています。これは、受贈者Yについて期限付きの所有権を創設することになり、所有権の永続性に反すること、遺贈者の意思で遺産分割を認めない世襲財産を創出することになり、相続法秩序に反すること等が理由とされています。
(3)改正の要点
a)後継ぎ遺贈型受益者連続信託
改正信託法では、受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託が認められています。A→B→C→D→Eの様に受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めも可能です。
かかる受益者連続信託により、後継ぎ遺贈と類似の法的効果をもたらすことができます。
b)期間制限
遺贈者の意思が長期にわたり財産の帰属先を拘束することは望ましくないため、信託設定時から30年経過後に生存する者が当該信託により受益権を取得した場合、同受益権取得者の死亡により信託は終了します。
例えば、A→B→C→D→Eと受益者が連続する信託において、Cが受益者となっている時点で30年が経過したとすると、C死亡時点でDが受益権を取得しますが、D死亡により信託は終了し、Eは受益者とはなれません。
2.活用場面
(1)期待される事例
a)基本事例
Aは、その有する土地・建物を、自分の死亡後は、居住権を保証するため第1に妻Bを受益者とし、B死亡後は長男Cを受益者とするようなケースが考えられます。
b)応用事例
Cが胎児である場合や最初に生まれた子を第2受益者とするなど信託設定時存在しない者を連続受益者の1人とすることができます。
(2)遺留分との関係
民法は、兄弟姉妹以外の相続人に最低限度の相続額として、遺留分制度を設けています(民法1028条)。
後継ぎ遺贈型連続受益者信託が相続人の遺留分を侵害する場合、減殺請求権の対象となります。
遺留分をどの段階で考えるかについては、委託者の死亡により第1次受益者による受益権の取得の段階でのみ遺留分を考慮するものとされています。
従って、a)基本事例において、次男Dがいるような場合、Dの遺留分はA死亡時に算定することになりますが、Bの生存期間はA死亡時点では不明なため、条件または不確定期限付きの権利として、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価により、その価格を定めることになります。
3.関連条文
改正信託法91条
民法1029条2項