前号までは、改正信託法について条文に沿って解説してまいりましたが、本号からは改正信託法を理解する上で重要なキーワードについて解説をしていきます。
まず本号では、「遺言信託」と「自己信託」について解説していきます。
[遺言信託]
1.意義
「遺言信託」とは、委託者が遺言によって設定する信託をいいます。すなわち、委託者が、特定の者に対して、財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨ならびに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理または処分およびその他の当該目的達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をすることにより設定する信託です。
なお、信託銀行等が従来から行っていた遺言信託とは、ここで言う「遺言信託」とは異なり、ひとことで言えば、遺言執行業務のことを指しています。
2.活用場面
委託者が、他の相続人を排除して、特定の受益者に受益権を与えたい場合や、委託者の死後、相続人間の経済状況等の変化を考慮して、受託者の判断で信託財産の処分等をしたい場合等で有効に活用できるものと考えます。
3.遺言代用信託との相違点
「遺言信託」とよく似た言葉に「遺言代用信託」というものがあります。
「遺言代用信託」とは、委託者が死亡した時に、指定されている者が受益権を取得する旨の定めがある信託、または委託者の死亡後、受益者が信託から給付を受ける権利を取得する旨の定めがある信託を指しており、「遺言信託」とは別のことを指します。
4.遺言代用信託の活用場面
委託者自身の固有財産について信託を設定して、生前は自らが受益者となり、委託者の死後は委託者の相続人が受益者となる旨の定めをする等、遺言や死因贈与契約と同様の目的を、相続の手続きと切り離して行いたい場合等で有効に活用できるものと考えます。
5.遺言代用信託の活用場面
「遺言代用信託」は、相続手続とは切り離されますが、遺留分減殺請求の対象になると考えられます。委託者が死亡した時に受益権を取得する者、または委託者の死亡後給付を受ける者が、委託者の死亡時に存続期間不確定な権利を取得したものとして、遺留分減殺請求に関する計算がなされると考えられます。
6.関連条文
改正信託法
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2条1号(定義)、3条(信託の方法)、5条(遺言信託における信託の引受けの催告)、6条(遺言信託における裁判所による受託者の選任)、90条(委託者の死亡時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)、147条(遺言信託における委託者の相続人)、148条(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)
[自己信託]
1.意義
「自己信託」とは、自己の固有財産につき、自らを受託者として信託を設定することをいいます。従来は信託宣言と呼ばれていました。
現信託法においては、受託者は他人であることが必要であったため、この「自己信託」は認められていませんでした。また、自分の財産でありながら固有の財産とは切り離されるため、強制執行不正免脱に利用される恐れがあり、また、関与する者が自分自身のみであるため、他人からしてみれば、実に不明瞭な法律関係に陥る点からも、この「自己信託」については批判がありました。
しかし今回の信託法改正の議論において、「自己信託」を認めることが国際的な流れに沿うこと、また利用方法によっては非常に有用であることから導入が認められました。
2.活用場面
活用場面については、さまざまなものが考えられますが、代表的なものを2つご紹介します。
(1)資産の流動化のため
これまで、信託を使って資産流動化を行う場合、受託者は信託銀行である必要がありました。しかし「自己信託」を利用すれば、信託銀行等第三者の関与を要せず、資産の流動化が可能となるため、コストの低減につながります。
(2)管理が困難な者のため
障害を抱える者等の親等が障害を抱える者等に対して財産を贈与しても、結局その財産を管理できない可能性があります。しかし「自己信託」を設定すれば、自身の破産という危険を回避しつつ、親等が自ら財産を管理することができるようになります。
3.活用における留意点
「自己信託」は、自己の固有財産から容易に切り離すことが可能となるため、強制執行不正免脱に利用される可能性があること、委託者と受託者が同一人であるため委託者が受託者を監督することできず、信託の内容があいまいになり法律関係が不明瞭になりやすこと、等の懸念があります。こうした点を踏まえて、以下のような手当てがなされています。
(1)書面によること
「自己信託」の意思表示は、公正証書その他の書面または電磁的記録によってなされる必要があります。そして「自己信託」の効力は、意思表示の時に発生するのではなく、公正証書であればその作成の時に、その他の書面であれば確定日付のある証書により、受益者に対し、信託がなされた旨および内容が通知された時に、信託の効力が発生します。法律関係を明瞭にするためです。
(2)登記・登録があるものについて
登記または登録をしなければ権利の取得、喪失または変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記または登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができません。
(3)経過措置
「自己信託」に関する規定は、濫用への懸念や税務・会計上の問題点などがあることから、信託法施行日から1年を経過する日までの間は適用しないこととされました。
4.関連条文
改正信託法
- 3条(信託の方法)、4条(信託の効力の発生)、23条(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)、附則2項(自己信託に関する経過措置)